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滲出性中耳炎

耳の構造と機能』も参考にして下さい

〈どんな病気でしょう?〉
 中耳(鼓膜の奥;鼓室)に水(滲出液)が貯まったり、鼓膜がへこんだりします(鼓膜陥凹)。耳管(中耳と鼻をつなぐ管)と中耳粘膜は換気や排泄にとても重要な働きをしていますが、炎症が残り耳管機能の障害と中耳粘膜の腫脹が続くと粘膜から滲出液の分泌が継続して中耳に溜まります。

滲出性中耳炎 滲出性中耳炎
滲出液が溜まっていて、3時のあたりに水面がみえております。 滲出液はアメ色で、上部には空気も見られます。


滲出性中耳炎 滲出性中耳炎,鼓膜切開
鼓室は滲出液で充満しており空気の存在は見られません。滲出液の性状も上記のものとは違い、赤黒くなっています。 左の鼓膜を切って(鼓膜切開)滲出液を吸引除去しました。切開の翌日の所見です。

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〈どんな症状がでるのでしょう?〉
 耳閉感(耳がつまる)・難聴(聞こえにくい)・耳鳴(耳がなる)・耳痛(耳が痛い)といった症状がありますが、幼少児では自覚症状に乏しく、また難聴も軽度かひどくても中等度の難聴です。また、年長児でも痛くなければ症状に慣れてしまうようです。耳に手をやる、テレビの音が大きい、返事をしない等の行動に注意して下さい。また、性格に影響を及ぼすこともあるようで、治療により、落ち着きが出てきた、積極的になった、弟や妹をいじめなくなった、と親御さんから聞くことがあります。
 ちょっとイメージして下さい。太鼓の中に水をいれて叩いてみましょう。響くでしょうか?響きませんよね。滲出性中耳炎は鼓膜の奥;鼓室に水(滲出液)が溜まる病気です。鼓膜・鼓室の“鼓”は太鼓の“鼓”です。当然ながら音の伝わりは悪くなります。
 
好発年齢は?〉
 従来は幼稚園児(4−6歳)くらいが多いと言われていましたが、実は乳幼児期(0−3歳)が最も罹患頻度が高くなります。これはこの年齢では自覚症状が乏しいことが起因すると考えられます。4−6歳の患児については、初発であることよりも乳幼児期からの持続・反復がほとんどです。これは先行する上気道炎の診療の流れから耳鼻咽喉科医の目を通らないことが多いためと思われます。
〈原因は?〉
1. 急性中耳炎の後、中耳粘膜や耳管に炎症が残り中耳粘膜や耳管の換気・排泄機能や機能が悪くなります。ほとんどは一過性ですが、十分に治りきらないまま急性中耳炎を繰り返すと滲出性中耳炎に移行します。
2. 耳管は鼻の奥(鼻咽腔)に出入り口があるので、アデノイド(鼻咽腔にあるリンパ組織)、扁桃肥大、鼻アレルギー、副鼻腔炎(蓄膿)があると耳管機能は悪くなります。上咽頭腫瘍でも滲出性中耳炎をきたします。
3. 乳突蜂巣(中耳につながる骨の空洞)の発育が悪いと症状が出やすく、逆に滲出性中耳炎がつづくと乳突蜂巣の発育も悪くなります。

〈どんな検査が必要でしょうか?〉
耳鼻咽喉科の専門医であれば、鼓膜の観察だけでほぼ診断はつきますが、治療方針の決定のためには次のような検査が必要です。

聴力検査 半数弱は正常域で、半数強が中等度の難聴です。学校での検査では異常がでないことも多いのです。
ティンパノメトリー 鼓膜の位置(外耳道と中耳の気圧較差を反映)や動き(可撓性;受動的な動きやすさ)の検査
耳管機能検査 耳管の開閉機能を見ます。(当院にはありません)
レントゲン検査 乳突蜂巣の発育やアデノイド、副鼻腔炎の有無を見ます。特に乳突蜂巣の発育は鼓膜チューブ挿入術の適応を決める上で有用です。
内視鏡検査 鼻咽腔の耳管開口部やアデノイドの状態を見ます。成人では特に上咽頭腫瘍の有無に注意が必要で、経過中に一度は行うべきと思います。
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ティンパノメトリーはこんな感じになります。赤が右、青が左です。右は山(ピーク)が“0”の位置(X座標)にあります。これは外耳道の気圧が大気圧の時に最も鼓膜がよく動く状態であることを示しており、鼓膜の奥(中耳腔)が大気圧であることを示します。つまりいい状態です。左はピークが“マイナス200”の位置にあります。これは中耳腔が陰圧であり、鼓膜が凹んでいる状態です。高いところから降りて来た時に耳がツーンとしますが、それと同じような状態です。その他、いろんなパターンがあります。 ティンパノメトリー
〈治療は?〉
1. 内服薬や鼻処置・耳管処置(鼻から耳管に空気を通す;通気治療ともいう)を行います。
2. 滲出液がとれない時は鼓膜を切って(鼓膜切開)取り除きます。
3. 再発する時は、鼓膜切開のうえチューブを鼓膜に挿入し、換気孔を作ります。通常6ヶ月から1年間留置します。ここまでの処置は外来で局所麻酔でも可能です。
4. アデノイドが耳管を塞いでいる時は、全身麻酔のうえアデノイド切除も行います。


<鼓膜チューブ挿入>
症例1: 5歳 男児
 
滲出性中耳炎 滲出性中耳炎
右鼓膜 左鼓膜

鼓膜チューブ挿入,短期型 鼓膜チューブ挿入,短期型
チューブ挿入後3ヶ月 チューブ挿入後

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症例2: 2歳 男児
滲出性中耳炎 滲出性中耳炎
右鼓膜 左鼓膜

鼓膜チューブ挿入,長期型 鼓膜チューブ挿入,長期型
チューブ挿入後5日 チューブ挿入後5日

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〈院長からのひとこと〉
幼稚園から小学校低学年の小児にかなり高率に認められますが、耳痛がないうえに、子供ですから難聴や耳閉感などの症状を訴えないため見逃されがちです。テレビの音を大きくする、後ろから呼んでも返事をしないなどの様子に気付いたら要注意です。滲出性中耳炎は急性中耳炎ほど激しい症状はありませんが、放置すると中耳や鼓膜が回復不可能な状態になることがあり、治療開始時期が遅れると治療効果もかんばしくありません。病態により治療法が異なるため、年齢・病期によりきめ細かな治療計画が必要です。

以下は私の治療方針です。
1. 滲出性中耳炎をくりかえしたり、長期間液体がたまっている場合は、液体をぬく必要がありますが、自然に液体が吸収されることもあるので鼻やノドの治療をしながら様子をみます。                     
2. 滲出性中耳炎は、鼻やノドの炎症が原因です。保存的治療の基本は鼻処置と耳管処置で、効果の有無を判断するには週に2〜3回は行なう必要があります。
3. 保存的治療が奏功しない時、鼻処置と耳管処置ができない時には鼓膜切開を行ないます。また、両側性で聴力が悪く、学校・社会生活に支障をきたす場合も鼓膜切開を行います。鼓膜の表面麻酔(注射はしません)をしますので痛みはありませんが、液を吸引する時の音は消せません。
4. 切開孔の閉鎖で液体が再びたまってくることがあり、何度も鼓膜切開を行なうことがありますが、さらにたまってくる場合には孔が閉じないよう鼓膜にチューブを入れることもあります。水泳は耳栓をして行ってもらっています。

次の点に注意して下さい
1. 滲出性中耳炎は自然に治る場合もありますが、年少児に多いために知らないうちに難聴をおこしていることも多くみられます。
2. 鼻すすりの多い子に滲出性中耳炎をくり返しやすい傾向があります。鼻すすりの習慣のある方は『耳管解放』や『耳管閉鎖不全』が関与している可能性があり、治療も難渋します。一方ずつ鼻をかむ習慣をつけることが必要です。
3. 鼻が悪くなることが多いのでスイミングは屋内・冬季は賛成できません。鼓膜チューブが入っている子は、耳栓を正しくつけるようにしていただき、夏のプールを楽しみましょう。ただし、飛び込み・潜水は禁です。
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